2019年04月26日公開
2024年09月13日更新
スタウトとは?黒ビールやポーターとの違いは?スタウトの種類とおすすめも
スタウトというジャンルのビールを知っているでしょうか?近頃は大手ビール会社もスタウトの名前で商品を売り出すことも増えたため、その名を聞いたことがあるという人は増えてきています。ですがスタウトがどんなビールか聞かれたら、ただ黒ビールの種類のひとつとしか答えられない人が多いのではないでしょうか?スタウトがどんな黒ビールで、ポーターを始めとしたさまざまな種類の黒ビールとどんな違いがあるのか、おすすめのスタウトとともに紹介します。
目次
スタウトの魅力を知っている?
スタウトは最近になってコンビニでも売られるようになり、徐々に認知が広がっている黒ビールのひとつです。イギリスなどのパブではスタウトは定番の黒ビールであり、真っ黒な見た目と濃厚な味わいが人気となっています。
ですが日本ではこのスタウトという種類の黒ビールに対して厳密な区分がなく、海外では別の種類に分ける黒ビールもスタウトに入れてしまっています。そんなスタウトが正式にはどんな区分の黒ビールなのか、その魅力とともに紹介します。
スタウトについて
スタウトは黒ビールの中の1種類ですが、一体どんな特徴を持った黒ビールなのでしょうか?日本でスタウトといっても何がどう他のビールと違うのか、色以外ではさっぱりわからない人のほうが多いことでしょう。スタウトがどんな特徴を持ったビールなのか、まずは基本的なことから見ていってみましょう。
アイルランド発祥の黒いビール
スタウトはロンドンのパブで考案されたポーターという種類のビールの改良版で、その考案者はあのギネスブックでもおなじみのアイルランドのギネスビールの創業者のアーサー・ギネス氏です。スタウト(stout)には「強い」や「しっかりとした」という意味があるように、味は濃厚で苦味・酸味とも強い特徴があります。
ギネス氏はアイルランドのギネスビールで「スタウト・ポーター」として製造・販売を始め、今や黒ビールといえばスタウトといわれるまでに定着しました。つまりスタウトはロンドンで考案されて、アイルランドで生まれたビールなのです。
そんなギネスビールのスタウトの歴史は古く、ギネスの代表的スタウトである「ギネスエクストラスタウト」が発売されたのは、今から260年前の1759年なのです。日本ではまだ江戸時代中期だったことを考えると、いかに歴史のある黒ビールかが良くわかります。
製法は?
スタウトの開発者であるギネスビール社では、ローストした大麦を色付けに使い、高温乾燥による糖化酵素力の弱かったブラウン麦芽からペール麦芽に切り替えることでエキス分の量を増やした結果、濃厚な味わいを実現するとともにアルコール度数も高く強化したのです。
スタウトはポーターから派生した黒ビールであるため、ポーターと同様に上面発酵して作ります。通常は15度~24度で短期発酵させる際に、酵母が上に浮いてくることから上面発酵といいます。スタウトはこの上面発酵で作られる、エールという種類のビールなのです。
ヨーロッパでの定義は?
スタウトのヨーロッパでの定義は、大麦を黒くなるまでローストしてから使用し、上面発酵によって醸造したエールと呼ばれる種類のビールであることです。モルトの使用について書かれていることも多いのですが、あくまでローストした大麦を使っていれば、そのビールはスタウトと呼ばれます。
ヨーロッパでスタウトと呼ばれるには、材料と作り方の両方の基準を満たしている必要があることがわかります。では日本でのスタウトの定義はどうなっているのでしょうか?
日本での定義
スタウトのヨーロッパでの定義を聞いて、引っかかるものを感じた人も多いのではないでしょうか?実は日本でスタウトの名前で売られているビールの中には、下面発酵と書かれたビールでありながらスタウトと名乗っている商品があるのです。
これは日本におけるスタウトの定義に関係があります。日本でのスタウトの定義は、「色の濃い麦芽を原料の一部として使用して、さらに色が濃くて香りが特に強いビール」と「ビールの表示に関する公正競争規約」という法律の第4条に定められているからなのです。
つまり日本では材料の色の濃さと完成品の色と香りの強さが問題であって、材料そのものの加工方法や醸造方法は問題ではないのです。そのため本来スタウトでないビールであっても、スタウトと名付けて売ることができるのです。
特徴
スタウトの特徴といえば、ほとんどのスタウトは単に色が濃いを通り越して真っ黒であり、味も非常に濃厚でありながら苦味と酸味も強く、アルコール度数も高めに作られていることです。香りはカラメル系のフレーバーが中心という特徴があり、その苦味も強さの割りに濃厚なコクが勝るため、あまり感じることはありません。
スタウトは上面発酵のエール系ビールらしく、ビールの中でも最も重量感のあるテイストでありながら、飲むのに最適な温度は10度~13度前後とぬるめが美味しいとされています。中でもアルコール度数が10度以上というスタウトの場合は、16度ほどまでぬるくしてから飲むのがより美味しいという、のんびりくつろいで飲むビールなのです。
味わいを愉しめる
出典: https://wowma.jp
スタウトの魅力のひとつが、一般的なビールとは全く異なった質の苦味です。スタウトの苦味の特徴は、大麦をローストしたことで生まれるコーヒーのような香ばしい苦味のため、ビールの苦味は苦手だけれどスタウトならば飲める、ということは意外と多くあるのです。
さらに先ほども紹介したように、スタウトはのんびりくつろいで飲むのが定番のビールです。一般的なビールのように、喉越しを楽しむような飲み方をするものではありません。スタウトは寒い時期でも美味しく感じられるように、一口一口味わいを楽しむような飲み方がおすすめの飲み方という、魅力あるビールなのです。
スタウトと黒ビールの違い:黒ビールについて
スタウトは黒ビールの種類のひとつですが、黒ビールもさまざまに種類分けされています。スタウトとそのほかの黒ビールの違いとは一体何なのでしょうか?黒ビールの特徴とスタウトとの違いを、材料や醸造法などからまとめてみました。
麦芽の話
スタウトに限らず、ビールを作る際に製麦という工程を経て麦芽を作ります。この製麦の工程の中に、芽が生えた麦芽の成長を止めるために、80度前後の熱風で乾かす焙燥(ばいそう)という工程があります。さらにこの焙燥を経て100度以上の高温で麦芽を焦がす焙煎という工程があります。
この焙煎の温度や時間で麦芽はさまざまな色に変化し、濃色麦芽と呼ばれます。濃色麦芽にもその色の濃さによって、キツネ色のカラメル麦芽やチョコレート色のチョコレート麦芽、真っ黒な黒麦芽など多くの種類に分かれます。
これらの濃色麦芽は実際には数%~10%ほどしか使われず、濃色麦芽をさまざまにブレンドしてその配合率を変えることで、いろいろな色や味わいのビールが作られているのです。
上面発酵と下面発酵
黒ビールは発酵方法でも3種類に分かれます。ひとつは上面発酵のエールビール、ひとつが下面発酵のラガービール、もうひとつが自然発酵のビールですが少数派です。
スタウトを含む上面発酵で作られるエールビールは、上面発酵酵母を使って常温(20度~25度)で3日~4日の短期間発酵をさせて作ります。その後約2週間の熟成期間を経て出荷されます。上面発酵酵母は発酵が進むにつれて表面に浮いてきて、液面に酵母の層ができることから上面発酵と呼ばれるのです。
一方下面発酵で作られるラガービールは、下面発酵酵母を使って低温(6度~15度)で7日~10日の長期間発酵をさせて作ります。その後約1ヶ月の熟成期間を経て出荷されます。下面発酵酵母は発酵が終わると酵母が底に沈降することから下面発酵と呼ばれ、19世紀以降は主流となっているビールの作り方でもあるのです。
スタウトは黒ビールの一種
スタウトは焦がした大麦を使って上面発酵で作った、エールビール系の黒ビールの一種です。エール系ビールとラガー系ビールには、発酵方法の他にもその飲み方に違いがあります。
エール系ビールはワインの代用品として作られたため、その芳醇で濃厚な飲み応えを常温でのんびり飲むのがおすすめのビールです。それに対してラガー系ビールは水の代用品として作られたため、冷やしてごくごくと喉越しを楽しみながら飲むのがおすすめのビールです。
スタウトを本格的に楽しみたいときには黒ビールのそれぞれの違いを理解して、上面発酵のエール系黒ビールを選ぶようにしましょう。
スタウトとポーターの違い
スタウトはポーターから派生した黒ビールですが、今ではビールのひとつの種類として定着しています。ではスタウトと素となったポーターの違いは何なのでしょうか?先にも少し紹介しましたが、改めてその違いをまとめてみました。
原料の違いは?
スタウトの元となったポーターは、原料にパテントモルトと呼ばれる黒く焦がした麦芽と、ブラウン麦芽と呼ばれる麦芽を原料に使っています。ですが先にも紹介したように、高温で乾燥させたブラウン麦芽は糖化酵素の力が弱まっているため、期待しているほどエキス分が生成されないという欠点があります。
そのためスタウトでは焦がした大麦を色付けに使い、パテントモルトと合わせる麦芽を、低温でじっくり焙燥した、糖化酵素の力が残った淡色麦芽のペール麦芽を使うことで、スタウトはポーターよりもエキス分が多く作られるため、アルコール度数が強くなるのが特徴なのです。
製法は?
スタウトはポーターから派生した黒ビールのため、製法はスタウトもポーターも同じ上面発酵です。そのため製造方法には違いはなく、どちらもエール系ビールに区分されています。
スタウトとポーターは製法が同じため、共通する特徴もあります。ビールの中では炭酸が少なく、鮮烈なポップの苦味も抑えられています。そのためマッタリとした口当たりをしていて、喉越しを味わうビールではなく、常温でその風味を味わうビールなのです。
味などの違い
スタウトとポーターの違いは、スタウトのほうがエキス分が多く作られるためアルコール度数が高いことと、大麦をローストして色付けしているため、銘柄によってはコーヒーフレーバーとも評されるようにポーターよりも強いロースト感を感じられることです。
またインペリアルスタウトのようにアルコール度数が10%程度というスタウトは、スタウトのおすすめの温度である常温で飲むと、そのしっかりとした香りが立って美味しいといいます。またスタウトは原料の違うさまざまな種類のスタウトがあるため、飲み比べてみるのもおすすめです。
スタウトやポーター以外の黒ビール
スタウトやポーター以外にも、黒ビールにはいくつかの代表的な種類があります。スタウトやポーターと違い、下面発酵させた黒ビールです。代表的な下面発酵ビール2種類を紹介します。
シュバルツ
シュバルツ(Schwarz)はドイツ語で黒を意味する言葉で、このことからもわかるようにドイツのバイエルン地方発祥とされる、下面発酵の黒ビールです。麦芽を真っ黒に焙煎するため、ビターチョコレートやコーヒーのような香ばしさが特徴です。
水の変わりに作られたビールとあってその苦味は弱く、色の濃さの割りにスッキリとした喉ごしの良い味わいのビールです。日本でも定番のビールであるピルスナー系の黒ビールであり、1年を通して楽しめるビールです。
デュンケル
デュンケルはドイツのミュンヘンで古くから作られている黒ビールで、ブラウン色の下面発酵ビールです。デュンケルとはドイツ語で「暗い」を意味し、真っ黒になる手前まで麦芽を焙煎して作ります。そのため麦芽の風味が強く、ホップの香りと苦味が控えめという特徴があります。
デュンケルの口当たりはラガー系らしく軽くてまろやかで、バランスの良い味わいです。単にデュンケルと呼んだ場合にはバイエルン地方のダークビール全般を指し、その定義においてホップの苦味よりもモルトのフレーバーが大きく勝っているものであり、ダークモルトに由来するチョコレート香・トースト香・ビスケット香が特徴とされています。
スタウトの種類
スタウトにはいろいろな種類があることも特徴のひとつです。ここではそんなスタウトの種類について紹介していきます。
ドライスタウト
ドライスタウトはスタウトの代名詞でもあるギネスの「ドラフトギネス」に代表されるように、飲み始めに軽く感じるキャラメル香と、強くローストした麦芽によるドライな苦味のある後味が強く残るのが特徴です。比較的重厚で複雑な味わいですが、必ずしもアルコール度数は高いとは限りません。
スイートスタウト
スイートスタウトは麦芽の苦味を押さえて甘味を強調させるため、砂糖を足した種類のスタウトです。そのため本物のチョコレートを足したかのような、甘いアロマを楽しむことができるスタウトです。日本では黒糖を加えるものが多く、食後のデザートビールとして人気の銘柄のひとつです。
フォーリンスタウト
フォーリンスタウトはドライスタウトよりも甘味とアルコール度数を強くしたスタウトで、コーヒーやチョコレートを思わせる軽い焦げたような風味をし、甘味と苦味は他のスタウトよりも強い特徴があります。アイルランドから輸出された先で進化したスタウトで、アルコール度数は5.7%~9.5%と高くなっています。
オートミールスタウト
オートミールスタウトは原料の一部にオートミール(引き割りのオーツ麦)を使ったスタウトです。ローストされた麦芽の香りのないスタウトで、代わりにオーツ麦由来の芳醇な香りが特徴です。チョコレートやカラメルを思わせる香りや、滑らかな味わいを楽しめるスタウトです。
インペリアルスタウト
インペリアルスタウトは、18世紀にバルト海沿岸地方に輸出されていた高アルコールビールが由来で、ロシア皇帝のエカテリーナ2世のお気に入りになったため、イギリスの醸造所がこぞってロシア皇室向けに作ったことから「インペリアル(帝国)」の名で呼ばれるようになりました。
アルコール度数は7~12%とビールとしてはかなり高い点が特徴で、ホップの苦味が強いものの麦芽の甘味でそれほど感じません。香り・コク・苦味のバランスが非常に良いスタウトで、インペリアルの名にふさわしいリッチな味わいが特徴です。
オイスタースタウト
オイスタースタウトはその名の通りカキのエキスを加えて作ったスタウトで、もともとはカキの殻をフィルターとして使っていたのをそのまま一緒に仕込むようになり、ニュージーランドで始めてカキの身を入れた最初のスタウトが作られました。
カキの身を入れて作っているものの生臭さはなく、強くローストした麦芽の甘味と苦味に、海の香りがほんのりと加えられているような印象を受けるスタウトです。
スタウトのおすすめ
スタウトを試してみたいけど、どんなスタウトが良いのか迷ってしまう、という人におすすめのスタウトを集めてみました。スタウトを飲んでみるのであれば、まずはこの銘柄から試してみてはどうでしょうか?本場の味を楽しめるおすすめスタウトを紹介します。
マーフィーズ・アイリッシュ・スタウト
ギネスと並んでスタウトの本場のアイルランドで人気を獲得しているのが、このマーフィーズのアイリッシュ・スタウトです。1856年より製造されている歴史あるスタウトのひとつで、世界80カ国以上に輸出されている人気銘柄です。
マーフィーズ・アイリッシュ・スタウトは、極めてまろやかな飲み口を特徴としています。苦味が非常に弱くて、人によっては感じられないほどまろやかであり、甘味の後にローストした大麦の風味を感じる、比較的ライトな口当たりの中にスタウトらしい柔らかい味わいがおすすめの、魅力的な逸品です。
ギネス・エクストラ・スタウト
ギネスには一説には19ものバリエーションがあると言われていますが、世界中で広く売られているギネスがこのタイプです。各国でライセンス生産もされている種類ですが、日本で売られているものの原産国はイギリスとなっていて、輸入元はサッポロビールの別会社です。
ギネスの代表的銘柄のひとつであるドラフト・ギネスと比べて、喉越しは濃厚でコクがあり、より複雑な味わいが楽しめるおすすめの銘柄です。わずかにチョコレートかココアのような香りがするのが特徴で、アルコール度数は約6%となっています。
山口地ビール・スタウト
国産スタウトビールでも評判を上げてきているのが、山口地ビールの「スタウト」です。ローストした麦芽とミネラルを豊富に含んだ天然水で醸造されているため、濃厚なコクと洗練された香ばしいフレーバーが特徴で、味わい深さと喉ごしの爽やかさが感じられます。
モンドセレクションで最高金賞を2年連続で受賞していることもあり、磨きのかかった味わい深さや美味しさは、絶大な人気を誇っています。
スタウトの濃厚な味わいはゆっくり愉しもう!
スタウトは日本では一般的なラガービールとは違い、常温でその濃厚な味わいをゆっくりと楽しんで飲むのに適した黒ビールです。落ち着いた大人のひと時に楽しむのに最適なビールとして、一度じっくりと味わってみてはどうでしょうか?