イギリス料理がまずいと言われる理由は?本当はおいしい伝統メニューも紹介
「イギリス料理といえば、どんなイメージが浮かびますか?」と訊かれると、10人中9人はこう答えるのではないでしょうか?「まずい」と。すっかり定番のネタとして使われる「イギリス料理はまずい」ですが、今回はその理由と共に、おいしい伝統メニューを紹介します!
目次
そもそもイギリス料理とは?
イギリス料理とは主に次のような定義があります。
簡素で実質的な家庭料理として知られている。素材の持ち味を生かす簡単な調理法に特徴がある。
材料は、基本的に肉、魚、じゃがいも、パンやパスタなどが多く使われています。また、「簡素で実質的」「簡単な調理法」とあるように、味付けがとにかくシンプルなのがイギリス料理の特徴的です。
イギリス料理=まずいイメージ
有名なエスニックジョークでは、「最低な暮らしは?」の問いに対して、各国の特徴を挙げる中、イギリスは「イギリス人のコックを雇うこと」とまでいわれる始末です。国際的に見ても「イギリス料理はまずい」と定着しています。
本当にイギリス料理はまずい?
まずいことが浸透しているイギリス料理ですが、果たして本当にまずいのでしょうか?実際にイギリス旅行に行った社会人に、アンケートをとったところ、イギリス料理はおいしかったと答えた人と、おいしくなかったと答えた人の割合は、半々というデータがあります。やはりまずいというのは、イギリス料理の持つ側面なのでしょう。
どうして「イギリス料理=まずい」になったのか?
実は、14世紀頃に出版されたイギリス料理のレシピ集「The Forme of Cury」の中には、豊かなイギリス料理を確認することができます。当時のレシピを再現した料理を食べた人によると、なかなかおいしいようです。
【今週末の勉強会情報・1】1/29(日)は中世西欧時代に記述された料理本の内容と食材について紐解き、またその中から再現した料理を試食形式でご体験頂く勉強会を開催します。今回のお題はリチャード2世によって残された「Forme of Cury」(1390年伝)です。 pic.twitter.com/R7vjME9804
— コストマリー事務局 (@costmary_net) January 26, 2017
では、なぜ「イギリス料理=まずい」になってしまったのでしょうか?それにはいくつか理由があります。
イギリス料理がまずい理由その1:産業革命
産業革命が起こった、18世紀後半から19世紀前半のイギリスでは、農村部から都市部ロンドンへ人口が集中するようになりました。人々は、都市部に移ってきてから、長時間労働を強いられることになります。その結果、すぐ簡単に食べられる外食や、料理法に人気が集まるようになりました。
皮肉にもこの形式が後々まで残ることになります。こうして、イギリス料理はかつての家庭料理や、郷土料理が崩壊し、育む土壌すら失われてしまったのです。
イギリス料理がまずい理由その2:ヴィクトリア朝期の料理文化
イギリスの上流階級では、フランスの料理人を雇ってフランス流の料理を楽しむのが一般的でした。このことが、自国であるイギリス料理の発展が遅れてしまった原因の一つといわれています。また、産業革命によってヴィクトリア朝期のイギリス国内では、人々の階層意識が強く表面化されるようになります。分かりやすいのが、中流階級が上流階級に憧れて、料理人を雇うというものでした。
しかし、中流階級が雇えるのは、貧しい労働者階級の出身者達です。彼らは特別な料理や教育を学んできたわけではありません。しかも、残念ながらこの時、すでに料理を育む背景が失われた状態であり、質素で簡単な料理しかできなかった、というわけです。こういった背景も、後々のイギリス料理の文化形成に影響したと考えられています。
イギリス料理がまずい理由その3:自国の料理を発展させる必要がなかった
インドや香港をはじめ、かつて世界中にイギリスの植民地がありました。わざわざ自国の料理を発展させなくても、各国のおいしい料理を食べることができる状態だったわけです。また、現在もイギリスは、移民の割合が高く、世界各国のグルメが味わえる場所として有名です。
イギリス料理がまずい理由その4:世界大戦の勃発
産業革命後、イギリスの食文化は低下傾向でしたが、20世紀に入ってからは、食料の保存技術の向上などから、持ち直したかのように見えました。しかし、第一次世界大戦と第二次世界大戦が勃発したことで、再びかつての質素で簡単な料理に逆戻りしてしまいます。そんな時代が30年近く続くことになります。悲しいことに、戦争もイギリス料理が今のイメージになってしまった原因の一つです。
イギリス料理がまずい理由その5:土地に恵まれていない
イギリスは、ヨーロッパの中でも北に位置し、緑黄色野菜が育ちにくい土地です。特に冬場は、野菜不足になります。イギリス料理にじゃがいもがやたらと使われるのは、じゃがいもが痩せた土地の栽培に向いているからです。気候の厳しい土地では、食文化が育ちにくいのも仕方のないことかもしれません。
イギリス料理がまずい理由その6:調理の単調さ
イギリス料理は「基本的に味がない」といわれ、しかも「野菜を茹ですぎる、黒くなるまで油で揚げる」など極端な面があります。これは、やはり産業革命時の衰退が原因です。調理人の味付け力も低下し、手間暇かけた料理法なんて発展しません。また、「茹でる、揚げる」調理法がやたらと奨励されるのは、ロンドンの水質が衛生上よくなかった説もあるようです。
当のイギリスの人々は、味のない状態に慣れているため、自分たちで味付けをして楽しんでいるようです。
まずいといわれる伝統のイギリス料理を紹介
すっかりまずいと評判になってしまったイギリスの伝統メニューを紹介します。
イギリス料理伝統メニューその1:スターゲイジーパイ
見た目のインパクトがすさまじい「スターゲイジーパイ」です。イワシやニシンを、卵やじゃがいもと一緒にパイ生地で包んで焼いています。映画、「魔女の宅急便」の中にも出てきた「ニシンのパイ」のモデルにもなったことで有名です。
イギリス料理伝統メニューその2:ハギス
羊の内臓を羊の胃袋に詰めて茹でた、イギリス料理です。実際に食べた方によりますと、「マズすぎる」「見た目も食感も無理…」「吐きそうになる」との苦しい言葉のオンパレードです。口にした途端、衝撃に見回られるかもしれません。
イギリス料理伝統メニューその3:フィッシュ・アンド・チップス
イギリス料理と言えばこれ!と思う方も多いのではないでしょうか?イギリス料理は、シンプルな調理や味付けが基本とされていますが、シンプルであるからこそ、料理の粗(あら)が目立ってしまいます。まずいという方の声を見てみると「水気がなくなって、身がゆるゆるに」「油でぎとぎと」と、魚に対する苦言がありました。量も多く、油で揚げたものなので、おいしくないと辛いものがあります。
イギリス料理伝統メニューその4:マーマイト
「マーマイト」とは、一体なんでしょうか?
ビールの醸造過程で増殖して最後に沈殿堆積した酵母、いわばビールの酒粕を主原料とし、主にイギリス及びニュージーランドで生産されているビタミンBを多く含む食品
一見、チョコレートに見えますが、イギリス人でも好き嫌いがはっきり分かれる食べ物だそうです。塩気がかなり強いく、パンに塗って食べるのが一般的です。日本人でいうところの「納豆」のようなものだそうです。
イギリス料理伝統メニューその5:ウナギのゼリー寄せ
こちらも有名なイギリス料理ではないでしょうか?ただウナギをぶつ切りにしただけです。実際に食べた方によりますと「魚臭い」「味も食感もひどい」とのことです。イギリスでも一部の人の間でしか食べられていないようです。フィッシュアンドチップスといい、イギリス料理は魚の扱い方が苦手なのかもしれません。
かつてはまずくなかったイギリス料理
先述のように、産業革命前のイギリス料理は、順調に発展を遂げていました。調理法も単調ではなく、「蒸す、直火であぶる、遠火で熱する」の調理法あり、材料や香辛料も多様だったにもかかわらず、20世紀を迎える前に残念ながら消えてしまった背景があります。
おいしいイギリス料理のメニューはあるの?
イギリス料理がまずい理由や、メニューを紹介してきましたが、おいしいイギリス料理もちゃんと存在します。特徴として「高いお店はおいしい」という傾向があります。よくおいしいといわれるのが、卵料理、豆料理です。土地柄で缶詰の種類も豊富です。また、パブの国だけあって、ビールに合う料理も多く、肉やチーズなども質が高いです。
おいしいイギリス料理のメニューを紹介
それでは、イギリスのおいしい伝統料理を紹介します。
おいしいイギリス料理のメニューその1:フィッシュ・アンド・チップス
まずい料理でも登場しましたが、きちんと作ったらおいしいフィッシュ・アンド・チップスです。タラなどの白魚をフライにしたもので、日本の天ぷらに近く、粉が天ぷらよりももっとふわっとしているようです。塩を少し振りかけたり、レモンやタルタルソースをかけるなどすると、酸味が効いておいしくいただけます。
おいしいイギリス料理のメニューその2:サンドイッチ
18世紀半頃に、イギリスのサンドイッチ伯爵が、切ったパンの間に肉を挟んで食べるようになったのが、はじまりだともといわれています。本場イギリスでは、バラエティに富んだサンドイッチがたくさんあります。ちなみに、現代のサンドイッチ伯爵の直系の子孫は、サンドイッチのお店を開業しています。
おいしいイギリス料理のメニューその3:イングリッシュブレックファースト
イギリスの朝食メニューとして有名な伝統料理です。イギリスのホテルなどで味わえます。トースト、スクランブルエッグかオムレツ、目玉焼きにマッシュルーム、薄切りのトマト、ベイクドビーンズ、焼いたベーコンかソーセージ、そしてハッシュポテトと、朝からかなりの量を味わえます。
ちなみに、19世紀後半から20世紀前半に活躍した、フランス生まれのイギリス人作家ウィリアム・サマセット・モームによると「イギリスで美味しい食事をとるならば3食朝食を食べるべき」という皮肉を残しています。ある意味、おいしさに定評があることが分かります。
おいしいイギリス料理のメニューその4:ミートパイ
パイを使った料理が多いのも、イギリス料理の特徴です。ラードやバターを使った生地の中に、牛肉や豚肉のひき肉などを入れて、味付けして焼き上げた伝統料理です。具材の食感や栄養価共に、食べ応えがある料理です。
おいしいイギリス料理のメニューその5:スコーン
スコーン(イギリス)
— みさき@スイーツ大好き!bot (@AvdTE49TTCufewh) February 26, 2018
イギリスでは、アフタヌーンティーに欠かせないお菓子。
ホットビスケットとしてアメリカに伝わっている。
ホイップクリームや好みのジャムを添えて、
ミルクティーと一緒にいただくのがイギリス流 pic.twitter.com/PKz13dLf35
伝統的なイギリスのお菓子のスコーンです。日本でもよく見かけるのではないでしょうか?「イギリス料理はまずい」の通説のある中、実は「イギリス料理でも紅茶とお菓子はおいしい」と世界でも認められています。アフタヌーンティーに最適なお菓子です。
おいしいイギリス料理のメニューその6:トライフル
重ねて作る、イギリスの伝統デザートです。元々は、スポンジケーキの余った部分を有効活用するために生まれたものです。他にも、果物やゼリー、カスタードクリームなどを使われています。簡単に作れる人気の高いデザートです。
イギリス料理はできる人とできない人の差が激しい?
イギリス料理には、いくつかの側面があることを紹介してきました。実際に留学や旅行でイギリスを訪れた人によると、イギリス料理は当たりはずれが大きいようで、料理ができる人とできない人の差が激しいことが伺えます。料理ができない人が子供に料理を教え、まずい料理法が脈々と引き継がれていくため、「おいしい」と「まずい」が二分化されているのでしょう。
もし、イギリスで絶対においしい料理を食べたい!のならば、料理の上手な家庭にホームステイさせてもらうか、地元でもおいしくて有名な、伝統的なイギリス料理が食べられるお店に行くといいでしょう。
イギリス人はイギリス料理をどう思っているのか?
自国の料理をまずいといわれる当のイギリス人は、自国の料理をどう思っているのでしょうか?
自国の料理すらジョークにするイギリス人
イギリス人自体も、イギリス料理のまずさを自覚しており、自虐的なジョークとして口に出すこともあるようです。実際に、イギリスの政治家であるジャック・ストロー氏は、フランスのシラク大統領からイギリス料理の「ハギスはまずい」といわれても、発言に賛同したエピソードがあります。
ここまでくると、イギリス人特有のブラックユーモアが、「イギリス料理=まずい」に拍車をかけているようです。実は「ますいと思わせておいて実はおいしいと思わせる」作戦なのかもしれません。
【まとめ】イギリス料理がまずいと言われる理由は?本当はおいしい伝統メニューについて
イギリス料理がまずいと言われる理由や、おいしい伝統料理を紹介させていただきました。イギリス料理の意外な背景から、実はおいしい伝統料理など、まずさも含めて魅力的な料理だとお分かりいただけたのではないでしょうか?イギリスに行った際には、ぜひとも本場のイギリス料理を楽しんでください。