ざるそばともりそば・せいろそばの違いとは?海苔の有無が関係してる?
お店でよく見かけるざるそばともりそば、どちらも同じ冷たいそばですが、いったいどこがどう違うか知っているでしょうか?もりそばは何もかかっていないそばで、ざるそばは海苔がかかっている、そんなイメージもあるかもしれません。違いは海苔の有無なのでしょうか?また、せいろそばとはどう違うのでしょうか?江戸時代に由来するざるそばともりそば・せいろそばの違いについて、調査してみました!
ざるそばともりそばは違う?
温かくしても冷たくしてもおいしいそばですが、暑い季節になると冷たいそばが食べたくなります。お店には涼しげな器に盛られたざるそばやもりそば、あるいはせいろそばというメニューで冷たいそばが並んでいます。サクサクの天ぷらと一緒に食べたり、とろろやうずら卵と食べたりと好みも様々です。何気なくいつも食べているそばは、ざるそばでしょうか?それとももりそば、あるいはせいろそばでしょうか?
ざるそばともりそば、一見してたいした違いはなさそうに見えます。お店によって違うのか、あるいは海苔がのっているかどうかだけの違いでしょうか?それならせいろそばは、どう違うのでしょうか?せいろというからには、蒸してあるのでしょうか?一見しただけではわからない、もりそば・ざるそば・せいろそばの違いについて、詳しく調べてみました。
ざるそばともりそばの違い
そもそもそばは中国から伝来したもので、日本には奈良時代にやってきました。渡来した後は雑穀の一種として栽培される程度で、あまりポピュラーではなかったようです。
当時は基本的に米と同じようにゆでて、そのまま粥として食べたり、粉にしたものを団子にして焼いたり蒸したりする「蕎麦掻き」という食べ方をしていました。それが江戸時代に入って、どのようにざるそばやもりそばへと変わっていったのか、詳しく見ていきます。
もりそばの由来
江戸時代の中期になると、そばを細長く切ったものをゆでて、つけ汁につけて食べるようになりました。これを「そば切り」といいます。
その後、そばを汁につけて食べるのがめんどくさくなったせっかちな江戸っ子たちが、めんつゆをそばに直接かけて食べるようになりました。そうすると、お皿も1枚で済んで一石二鳥というわけです。そこで江戸にあった「信濃屋」というお店がそばにつゆをかける「ぶっかけそば」を売り出しました。これが今でいう「かけそば」の由来です。
ぶっかけそばが江戸で流行り出しましたが、その一方で今までのようにつゆにそばをつけて食べたい人たちも存在します。それでそば切りを器に盛って出すようになりましたが、ぶっかけそばと区別するために「もりそば」と呼ぶようになりました。
ざるそばの由来
上記のようにそばが流行り出した江戸時代の中期には、街道沿いにたくさんのそば屋さんが立ち並ぶようになりました。するとよりそばをおいしく食べる方法を考えるようになります。小麦粉とそば粉の配分を2対8から1対9、さらにはそば粉10割にしてみるなどの工夫が施されます。もちろんそば粉が多い方がおいしく風味がでるというわけです。
さらに、深川にあったそば屋「伊勢屋」は、より繁盛するように他店との差別化を図ります。伊勢屋は、竹ざるにそばを盛ったら涼しそうでおいしく見えるのではないか?と考えました。すると伊勢屋はたちまちたくさんの客でにぎわいます。器が違うだけですが、あっというまに他の店でも真似するようになり、こうして「ざるそば」が浸透していきました。
ざるにのっているだけでそば自体はもりそばと変わらないのですが、高級なそばとしてざるそばを出すようになりました。そして明治時代になると、もりそばとさらに差別化するために、ざるそばに刻み海苔をのせて提供するようになりました。これが、現在でもよく見かけるざるそばの由来です。
ざるそばともりそばの違いは海苔の有無?
ここまでで、ざるそばともりそばの違いはざるにのっているかどうか、海苔がのっているかどうか、ということになります。今ではざるそばももりそばもざるにのっていることが多く、一見して海苔がのっているかどうかの違いに見えます。
しかし明治時代に入ると、ざるそばともりそばはより差別化されて、ざるそばは高級なものとして扱われていきます。まず、使用するそば粉が変化しました。一番のど越しがよく苦みの少ない一番粉を使うようになり、白っぽいめんを提供していきます。白を基調とすることで、より高級な見た目になります。
次に、つけるつゆにも違いを出しました。もりそばのそばつゆは当時2番だしを使っていて、うまみが若干落ちるだしでした。でもざるそばには、かつお節や昆布などの1番だしを使っていたようです。当然、2番だしより1番だしのほうが高級でおいしい味になります。
ざるそば発祥の江戸深川は高級リゾート地のようなものだったので、しょうゆをだし汁で割っただけでは物足りなかったようです。だし汁にみりんを混ぜて、濃厚でちょっと甘みのあるそばつゆを出すようになりました。当時みりんは高級な調味料だったので、みりんを混ぜたつけ汁は御前返しと呼ばれ、高級なものとして扱われました。
明治以降、ざるそばには海苔がかけられましたが、海苔も当時は高級品でした。今でこそ身近な海苔ですが、江戸時代には養殖の方法がなく、天然ものの海苔を採取していました。少量とはいえ高級品である海苔をのせたざるそばは、高級なメニューとして提供されました。以上の理由で、もりそばには海苔がなく、ざるそばには海苔がのっているのが一般的になったのです。
このように、ざるそばはもりそばとどんどん差別化され、高級品となりました。高級なざるそばはお金持ちの人たちが食する食べ物となって、もりそばは庶民的なそば屋、ざるそばは高級なそば屋で分けて提供されていました。しかし、戦後海苔の養殖技術が確立し、みりんやだしも流通技術が発達していったため安定して供給されるようになります。その結果、ざるそばは高級品ではなくなり、見た目で区別する方法が薄れていったのです。
こうして現代になり、ざるそばともりそばの区別が薄れ、海苔があるかないかだけの違いになったのです。
せいろそばとは?
もりそばやざるそばの他に、せいろそばというそばもあります。ではせいろそばとはいったいどんなそばなのでしょうか?
せいろそばの由来
せいろとは、蒸し料理に使う「蒸籠(セイロウ)」から派生した言葉です。そばが流行った江戸時代初期、小麦粉を混ぜて作るそばの製法が確立するまでは、そばを蒸す製法が取られていました。せいろで蒸すので、冷たいそばを食べる習慣はなくあったかいそばが一般的でした。
なぜせいろに入れたままそばを出していたかというと、蒸した生そばは蒸してから器に移すと切れやすかったためです。なので蒸し器のせいろに入れたまま提供されました。蒸したそばは、蒸し器で閉じ込めているので香りが逃げずに風味の良いそばが出来上がります。またそばの栄養素は水溶性のものが多く、ビタミンやルチンなどは茹でると流れ出てしまうので、蒸したそばのほうが栄養価が高いといえます。
しかし、蒸したそばはすぐ切れてしまいボソボソしていたようです。その後小麦粉でつなぎをしたそば粉の製法が確立すると、ツルツルとのど越しのよいゆでたそばが主流になっていきました。その後もりそばやざるそばが提供され流行り出していくと、それまで安くそばを提供していたそば屋はそばの値上げを幕府に要求します。いったん却下されたものの、器を底上げして量を減らして提供するよう案が出されました。
こうしてそばの底上げのために器にせいろが使われるようになったのです。底上げされて山盛りになったもりそばは盛りせいろと呼ばれ、その後せいろそばという名前で定着しました。
せいろそばとざるそば・もりそばの違い
このような歴史を経て、現在では、せいろそばとざるそば・もりそばの違いは海苔の有無と器の違いしかありません。ざるにのっていても海苔がのっていないのがもりそば、海苔がのっているのがざるそば、器がせいろなのがせいろそばです。老舗のそば屋では専用のだし汁を作っているお店もあります。
ところでなぜざるそばに海苔をのせているかというと、そばは香りを楽しむのも醍醐味とされていて、そこに同じく香りのある海苔は、本来ならあまりのせるには適していない食材でした。しかしそばは一年中風味のよいそばを収穫できるわけではなく、夏や秋には風味が劣ります。それをフォローするために、香りの強い海苔を使った、という説があるようです。
また海苔で不足分の栄養も補え、そば汁との相性も良いので、ちゃんと考えられた意味のあるトッピングなのです。
ざるそばともりそばの違いを知ってもっとそばを楽しもう!
いかがでしたか?ざるそばともりそばの由来と違い、せいろそばの歴史から現在に至るまでを詳しくお伝えしてきました。いつも何気なく食べているそばは、今では海苔や器の違いしかないものの、たくさんの人を介して変化してきた伝統と歴史がありました。お店に行った時には、こんな奥が深い違いがあったことを思い出して、おいしくそばを楽しみましょう。